【口座凍結は今も意味があるのか?実例から考える法的根拠と現実対応】
日本の相続実務において、「預金口座の凍結」はよく知られたプロセスですが、実際に経験するとその影響の大きさに驚く方も多いでしょう。今回は、行政書士として相続業務に携わった際の実例をもとに、口座凍結の意味と法的根拠について考察します。
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【実例:預金送金直後の口座凍結】
依頼者であるA様(98歳)が急逝されたのは、ある冬の日のことでした。実はそのわずか3日前、A様の長男であるB様が本年に亡くなったことに伴い、B様の銀行口座の相続手続きを完了したばかりでした。
B様の口座を解約し、その預金をA様の名義の口座へ送金した矢先、A様が他界されたため、金融機関がA様の口座を即時凍結。結果として、送金された預金が「宙に浮いた」状態になってしまったのです。
この状況に困惑した私は、金融機関に事情を説明し、送金済の資金をA様口座へ正規に入金してもらうことはできましたが、手続きは複雑で、時間と労力を要しました。
この経験から、そもそも「口座の凍結は今の時代においても本当に必要なのか?」という疑問が湧いてきました。
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【法的な背景:口座凍結の根拠】
■ 最高裁判決と可分債権の認定
平成28年12月19日の最高裁判決により、被相続人の預金債権は「可分債権」とされました。つまり、相続人がそれぞれの法定相続分に応じて単独で金融機関に対して預金の払戻しを請求できることが明確になりました。
それにもかかわらず、金融機関は依然として「死亡届が提出された時点で口座を凍結」する対応を取ります。
■ 凍結の主な理由
– 不正引出の防止:相続人の一部が勝手に預金を引き出すことを防ぐ。
– 相続トラブルの回避:相続人間での紛争や責任追及を避ける。
– 金融機関のリスク回避:後日、他の相続人からの訴訟リスクを防ぐため、原則として凍結後に必要書類を確認してから払戻す方が安全。
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【凍結による実務上の問題】
実例のように、「送金が完了した直後に口座が凍結された」というケースでは、預金が一時的に処理できない状態となり、非常に煩雑な対応を求められることになります。
また、年金や保険金の未入金がある場合も、凍結により払い戻し処理や訂正処理が遅延することがあり、相続手続全体に影響を与えることがあります。
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【今後の対応と提言】
口座凍結は法的には根拠があり、金融機関にとっても必要なリスク管理手段であることは確かです。しかし、近年の相続法改正(例:2019年の遺留分侵害額請求の金銭債権化)やデジタル化が進む中で、もう少し柔軟な運用が求められているのも事実です。
行政書士や弁護士としては、被相続人の高齢や健康状態を踏まえ、預金の移動・処理のタイミングを慎重に計る必要があります。また、金融機関とも密に連携し、万一の際に備えた段取りを整えておくことが、依頼者にとっても大きな安心につながります。
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【まとめ】
口座凍結は現在でも意味があり、法律と金融実務の両面から見ると「必要な措置」であると言えます。しかしながら、相続実務に携わる専門家としては、その運用に対する疑問や改善点を常に検討し、依頼者の利益を最大化する努力が求められます。

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